目次
- 魔王城でおやすみ 〈怠惰〉と〈暴力〉と〈サイコパシー〉の新しい結節
- 魔女の旅々 データベース構造を一作で表現する
- ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 競争社会のラディカルな解体
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ピエール・バイヤール著、大浦康介訳『読んでいない本について堂々と語る方法』は、4年前に文庫化されてから11刷を重ね、その評価はある程度に固まったといえる。
本記事は、今さらこの本を買う気もしないが、内容は気になるという読者を想定し、本書の梗概を提供しようとしている。実は、本書の魅力は本筋以外からそれた、引用やちょっとした文学批評にもあるのだけれど、本記事ではそれらを思い切ってすべて省き、本筋のトピックと論理だけを拾い上げ、さらに簡潔になるように全体を再構成した。だからものの数分もあれば概要が把握できるものになったと思う。もちろん、再構成とはいっても、本書の重要な主張や論理的関係は保存するようにつとめた。
そういう記事であるから、この本を読んだことのある人が、その内容を確認しようという目的にも役立てることができる。
5項あるが、「特徴と大要」と「内容の要約」だけで本書の概略はわかる。それ以下の項は、このブログにもう少し時間を割いてもよいとか、本記事に批判を加えたいとか思った人のためのものにすぎない。
雲の中で最も重い雲である積乱雲が玉座に構えている時期、地上の万物は空気ではなく熱水のなかに棲み、あざやかな赤屋根が跳ねる鋭利な光も、水面の反射光のようにうるんでいる。人間は自分たちが水の重さに耐えられないことを訓えられ、ただ原子力が原子炉を熔かしてしまうように、脳髄と肉体を蕩尽しえない火照りに苛まれている十代だけが、ますます特権的な力を水から享けとるその間にも、天上では季節のクーデターが準備されていて、八月三十一日と九月一日の境界線が巨体な王を断首し、その断面から流れ広がった血のような巻雲が、やがて光線の皮膚をあいまいにぼかす。その日はちょうどこのような、初秋を報せる朝だった。東向きのヴェランダに出ると、日差しはもう目をつぶらせるほど眩しくなく、空はもう感傷的なほど青くなく、やや乾いた北風に、新しい季節がかぎ取られた。私は外に出ようと思った。愚かしくも、風の訪れを祝福しようと思っていたのだ。
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